D2Cスマイル

SHARE

スマイルを共有する

Facebook
Twitter
google+
はてなブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
デジタルマーケティングの総合オピニオンサイト
HOME > キャンペーン流入残存率ゼロからのUI/UX改善―“第3の放送”「i-dio」のアプリリニューアルにみるUI/UXの重要性
2018/06/01
2018/06/01

キャンペーン流入残存率ゼロからのUI/UX改善―“第3の放送”「i-dio」のアプリリニューアルにみるUI/UXの重要性

 

テレビでもラジオでもない、まったく新しい“第3の放送”として注目を集める放送サービス「i-dio」。かつてアナログ放送で使われていた周波帯域を使用し、エンターテイメントの側面だけでなく、災害情報を伝える防災面からも大きな期待を寄せられています。

 

「i-dio」の主要なサービスは誰もが無料でダウンロードできるスマートフォンアプリを介しても視聴可能なサービスですが、2018年2月、このアプリが大きくリニューアルし、新たなUI/UXに生まれ変わりました。大幅刷新の背景にはどんな課題があったのか、そして、どのように改善をし、どのような結果が得られたのか。「i-dio」における通信インフラの整備に従事し、アプリ開発を進める株式会社VIPの長谷川修平氏、UI/UXの専門家としてアプリの大幅リニューアルを指揮した株式会社D2C dotの五十嵐友子氏に、お話を伺いました。

 

(左)株式会社VIP 環境開発部長 長谷川修平氏
(右)株式会社D2C dot UXデザイン室 五十嵐友子氏

 

 

テレビでもラジオでもない、まったく新しい放送サービス

―新たな放送サービスとして2016年7月にスタートした「i-dio」。iPhoneやAndroidのアプリを通じても視聴可能なサービスですが、先日、アプリの新バージョンがリリースされました。今回のリリースでは大幅なリニューアルがなされ、とりわけUI/UXの改善に注力されたと伺っていますが、あらためて「i-dio」とはどのようなサービスなのか、概要からお聞かせください。

 

株式会社VIP 環境開発部長 長谷川修平氏

 

長谷川:皆さんご存知の通り、テレビ放送がアナログからデジタルに移行し、2015年3月にはアナログ放送が完全終了を迎えました。そこでアナログ放送に使用されていたVHF-Lowという周波数帯域が、いわば“空き地”の状態となった。その“空き地”を有効活用しようと始まったのが、「i-dio」という放送サービスです。国内を7エリアに分け、現在(2018年4月取材時点)は関東・甲信越、東海・北陸、近畿、九州・沖縄の4エリアで視聴いただけますが、残りの北海道、東北、中国・四国についても、年内の放送開始を予定しています。

 

「i-dio」はテレビでもラジオでもないまったく新しい“第3の放送”として、デジタルデータであれば、何でも送信できることが強みです。最近、スタートした『アニソンHOLIC』という番組を例にすると、「この曲とこの曲、どっちが聴きたい?」と視聴者からデータ放送画面で投票を募り、ユーザー参加型の番組作りを実践しています。また、地域に特化した災害情報を届ける役目も担っていますが、誰もが無料でダウンロードできるスマホアプリが主要な受信機器のひとつとなることも大きな特長です。

 

 

広告流入からの「残存率ゼロ」から明確になったUI/UXの重要性

―今回、その主要な受信機器となるアプリを刷新されたわけですが、大幅なリニューアルを要した背景には、どのような課題があったのでしょう?

 

長谷川:開業当初はいわゆるアーリーアダプターやラジオファンが熱心にアプリを利用してくださったのですが、サービス開始から数ヵ月経ち、ある程度アプリのダウンロードが落ち着いたタイミングで広告施策を打ちました。「まずはアプリのダウンロード数を大きく伸ばそう」という目的でしたが、ここで明らかになった数字が、リニューアルの大きな背景です。確かにダウンロード数は伸びましたが、広告から流入した新規ユーザーのおよそ一週間での残存率が、ほぼゼロ。一時的な関心でダウンロードしたユーザーからは、「落としてはみたものの、使い方が分からない。だから放っておこう」と、離脱されてしまったのでしょう。

 

開発側の人間なら経験があるかと思いますが、私たち開発者は、どうしてもアプリに対する思い入れが強い。同時に度重なるテストを通じ、操作にも慣れきっています。そのため、どこか客観性を見失っていたのかもしれません。となれば明確な客観性のもとに、改善をしなければならない。そこでどのように改善していくべきか、UI/UXのデザインに強いD2C dotさんにご相談をしたのが始まりです。

 

―具体的にどのようにリニューアルを進めていったのでしょうか?

 

長谷川:まずはアプリのユーザーからモニターを募り、操作性に関するアンケートを実施することからスタートしました。その回答をD2C dotさんと共有し、集計や解析をお願いしたというプロセスです。

 

五十嵐:共有いただいた回答を解析したところ、「初期設定のやり方が分からない」「番組表の見方が分からない」と、やはりUI/UXにかかわる問題点が浮き彫りになりました。ただ、それだけでは「分からない」ということが分かっただけに過ぎません。では、どうすれば「分かる」ように改善できるのかを知るため、新たにモニターを募り、ユーザビリティテストを行っています。

 

 

意外なつまずきを知る、マンツーマンのモニターテスト

―モニターからアンケートを募り、さらにモニターテストを行う。2つの段階において、ユーザーありきの取り組みをされたわけですね。

 

株式会社D2C dot UXデザイン室 五十嵐友子氏

 

五十嵐:そうですね。特にモニターテストにおいては、ご協力くださったモニターさんとマンツーマンのような状態で、改善点を洗い出していきました。これはUI/UXで言うところのHCD(Human Centered Design/人間中心設計)に則ったプロセスですが、あらためてユーザーの動向に目を向けてみると、意外なつまずきに気づかされます。

 

例えば「初期設定のやり方が分からない」という問題点にしても、アプリ外の操作でつまずくユーザーの存在が明らかになりました。例えば、「i-dio」はインターネット回線を使うインターネットラジオ的な受信方法のほかに、スマートフォンと無線接続する専用モバイルチューナーを用いて放送波を視聴することができますが、そのためにはスマートフォンそのものの無線LANの設定を変更する必要があるため、一部のユーザーはそこでつまずき、離脱してしまいます。今回は、こうした問題点を一画面ごとに分類し、画面ごとのワイヤーフレームから、しっかりとご提案させていただきました。

 

実際の構築を手掛けるデザイナーにも「この画面でこういう問題が起きており、この問題を解決するためにこのワイヤーが存在します」という一連の流れをきちんと説明する。これを徹底していましたね。

 

 

UI/UX改善が導いた“問い合わせゼロ”

―長谷川さんのお話にもあった「客観性」、すなわちUI/UXの根幹とも言うべき「ユーザー目線」を第一に進められたのですね。

 

長谷川:その通りです。何よりもユーザー目線での分かりやすさにこだわり、改善していきました。以前のバージョンではグラフィックデザインの観点からデザインを構築していたため、どこか抽象的で分かりづらい側面がありました。しかし今回のバージョンアップでは、きめ細やかな説明を徹底しています。

 

スマートフォンそのものの設定に触れるプロセスでは、当該画面のキャプチャ画像を埋め込みましたし、専用チューナーの設定に触れるプロセスではチューナーの写真を添え、「このボタンを押してください」と図で示しています。

 

弊社ではサポートの窓口としてカスタマーセンターを設けていますが、旧バージョンのアプリをリリースした直後には、操作に関するお問い合わせが多くありました。それがリニューアル版のリリース後には、一切ありません。改善の結果を実感しています。

 

―旧バージョンのリリース後にはあった問い合わせが、リニューアル版のリリース後にはゼロに。とても大きな数字ですね。

 

五十嵐:それを聞いて、とてもホッとしました(笑)。今回のリニューアルでは長谷川さんがお話しくださったほかに「番組表の見方が分からない」という問題点を改善するため、画面の至るところに番組表への入り口を作ったり、放送が流れるまでのタイムラグに戸惑うという声を受けて、グラフィカルなインジケーターで示すスタイルから、「まもなく音声が流れます」と率直に文字で示すスタイルに修正しています。このように一貫して丁寧に説明するようなデザインが、良い結果につながったのかもしれません。

 

 

ユーザーの実感を根拠とした提案が、経営陣を動かす

―長谷川さんから「旧バージョンのアプリには、グラフィックデザインの観点を用いた」というお話があったように、アプリのデザインには、視覚的なクオリティの高さも欠かせないはずです。「人に優しいデザイン」と「視覚的にかっこいいデザイン」の両立も、一つの課題だったのではないでしょうか?

 

五十嵐:そこに関しては、すでに旧バージョンのグラフィックに慣れ親しんでいるユーザーさんもいるため、「ガラッとは変えずに」という方針で進めていました。以前のグラフィックを生かしつつ、操作性の分かりやすさを向上させるというスタンスです。こうしてリニューアルを経た今の実感としては、情報設計を始めとした構造的な部分をしっかり見直せば、表層のデザインは変えずとも改善はできると、それが実証できたのではないかと思います。

 

―構造による下支えが強固であれば、分かりやすさとかっこよさは両立できる。とても励みになる実証例ですね。もう一つ、UI/UXのデザインにおいて悩ましいのが、予算の獲得です。あらゆるサービスにおいて“体験”が重要視される一方、事細かな改善に関しては「経営陣の理解が得られない」という声も少なくありません。

 

長谷川:弊社でもここまで細やかなリニューアルをすることに対し、賛否両論があったのも事実です。ただ、そこでD2C dotさんにご協力いただいたアンケートの解析結果や、モニターテストの結果が大きな説得材料になりました。明確な根拠を示さず「ここが悪いと思うので改善します」では、経営陣を納得させられないのも当然です。しかしユーザーの実感を根拠に改善の必要性を訴えれば、評価はまるで違います。

 

―今回、ユーザーの声がリニューアルとして形になりましたが、リニューアルに踏み出すための第一歩、予算を通すという段階でも、ユーザーの声が生きていたのですね。では、今回の結果を経て、今後への展望についてもお聞かせください。

 

i-dioを用いた災害情報伝達システム「V-ALERT」の専用受信機も自治体向けに普及が進んでいる

 

長谷川:直近の大きな動きとしては、今年6月に新たなアプリのリリースが決定しています。「i-dio」は柔軟性の高い放送プラットフォームで、今回リニューアルした標準受信アプリのほかにも、放送チャンネルの制作会社単位でも、独自に視聴アプリを開発しています。その一つが「TS ONE」というチャンネルを視聴するための専用アプリ「TS PLAY」ですが、6月には「i-dio」標準アプリとと「TS PLAY」を一つのアプリに統合し、「TS PLAY by i-dio」として配信予定です。

 

この新アプリでは「TS ONE」から開発された独自の拡張機能を取り入れ、ユーザーが求める利便性と音質の向上を目指していきますが、常にユーザーの声に耳を傾け、その声を反映するようなチューニングは継続しなければいけません。これは今回のリニューアルを経て、あらためて実感したことです。

 

ただ、先にもお話ししたように、私たちのような制作側の人間は開発に熱が入るあまり、どうしても客観性を見失いがちです。「ここをこうすれば、きっと改善できるはず」とアイデアが浮かんでも、それが正解とは限りません。だからこそ、ユーザーの皆さんの声と自身の気づき、そしてUI/UXに詳しい方の知恵を合わせ、より正しく進化していきたいと考えています。

 

関連記事 RELATED ARTICLES
このライターが書いた記事